【33】「共存化」が求められる時代─━森山まり子『クマともりとひと』を読む/5-7

  「『日本熊森協会』って、知ってますか?」──過去20年あまり、こう私が訊いて、「ああ」とか「うん」とか「勿論」と答えてくれた人はゼロ。全国に2万人近い会員がいる日本で最大級の自然環境保護団体だというのに、である。すでに26回の年次総会が開かれている。私がこの会に関わったのは、議員になって間もない頃。三宮での駅頭演説の最中に、宣伝カーの上から見てると、クマの似顔絵と共にその名が書かれた幟が目に飛び込んできた。それいらい、あれこれ文句や注文ばかりつけながらも、この協会をサポートし続けてきた。別にクマが凄く好きというわけではない、森の大事さは分かるけれど、まあ普通である。にも関わらず、顧問を引き受けてから、ずっと休まず応援してきたのはどうしてか?前会長の森山まり子さん(現名誉会長)に不思議な魅力を感じるからだという他ない。

 その森山さんの講演を聴いて直ちにファンになり、応援しようと思った人は少なくない。それくらい、この人の話は説得力がある。『クマともりとひと』は、その森山さんの講話要旨であり、同協会の「誕生物語」である。実はこの本(60頁ほどの小冊子)は読んだことがなかった。お話を幾たびも聴いているから、別に読まずとも、と思っていた。しかし、先年、福岡防衛局に馬毛島のマゲシカ保存の要望のために、私が伊藤哲也同局長にアポを取って同行することになり、改めて読むことにした。JR西日本の新幹線車中で、読んでるうちに思わず、じわっときた。この協会の誕生は、中学校の理科の先生をしていた森山さんのところに、ひとりの女生徒が新聞記事を持ってきたことに始まる。ツキノワグマが絶滅の危機に瀕していることを伝えていた。1992年のことである。

●生きとし生けるものの共存

 森山さんは「森を消した文明は全て滅びている」ことは知っていても、クマと森との因果関係には思いが及ばなかった。絶滅するクマについては既存の様々の自然環境保護団体が取り組んでいるはず、と思い込んでいた。ところが現実にはそんな団体は皆無。「科学がどんなに発達しようとも、自然なくして人なし。自然あっての人間だ。その自然というものは、無数の多様な動植物が互いに密接にかかわりあって、絶妙のバランスの上に成り立っている。自然を守るということは、生物の多様性を守ることである」と、普段子供たちに教えている自分が逃げるわけにはいかない。そこから、生徒と教師の〝チーム森山〟の格闘が始まった。

 クマについては、誤解が多い。「本来、森の奥にひっそりと棲んでおり、見かけと正反対で大変臆病。99%ベジタリアンで、肉食を1%するといっても、昆虫やサワガニぐらい。人を襲う習性など全くない。人身事故は、こわがりのクマが人間から逃げようとして起こす」ということが殆ど理解されていないのである。森の荒廃が進んでおり、エサを求めてクマが人里に降りてくることから、人とクマの悲劇が常態になった。それをあらためるべしと、熊森協会はあくなき活動を展開している。4年前に新しい会長が誕生した。室谷悠子さん、当時の女子中学生のひとりで、今は弁護士である。2人の幼な子をかかえて、見事な後継を果たしている。

 先の総会の挨拶で、私は『77年の興亡』にことよせ、時代を振り返った上で、次の77年を展望した。明治維新からの77年間、日本は「近代化」を求め続けた。第二次世界大戦の敗北から今日までは、「民主化」を求め定着させた77年であった。そして、これからは、「共存化」の時代でなければならない、と。人間同士は国家の体制の違いをのり超えて、また人間と大型野生動物からコロナウイルスまで、生きとし生けるものの共存が求められてくる、と強調した。歴史観に基づき、熊森協会の果たす役割が大きいことを明らかにしたかったのである。この本は、そうしたことの背景を解き明かす、小さいけれど、とて大きな内容を持っていることを強調しておきたい。

★【他生のご縁 熱血溢れる環境保護団体のリーダー】

 三宮駅前で街頭宣伝活動をして鉢合わせしたあの日から、こんなに長きにわたってお付き合いをすることになろうとは。森山さんとは、幾たびも論争したものです。本当に純で、真っ直ぐで、パワフルな人です。日本最大級の自然環境保護団体のリーダーとしてこの人ほど魅力に溢れた人はいないと思います。

 先に、私が朝日新聞Webサイト『論座』に熊森協会のことを書くと言ったところ、岡山県と兵庫県の県境にある若林原生林地区に行きましょうと、誘ってくれました。実に20数年ぶりでした。人工林との違いを知るためにと連れて行ってくれた思い出の場所再訪です。影響力ある媒体に原稿を書くのなら、原点に立ち返って、現場を取材すべし、との親御心ならぬ先輩心からでした。有難いことと感謝しました。お陰で、力作を書くことが出来たと自負をしています。

 

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