【42】脱成長で豊かな社会は可能か——広井良典『人口減少社会のデザイン』を読む/7-26

 先日、大阪弁護士会有志による『環境・福祉・経済の鼎立は可能かーポスト成長・人口減少社会のデザインー』というタイトルのゼミナールにリモート参加した。「熊森協会」会長で弁護士の室谷裕子さんの紹介による。この本がテキストということで、開催前日までに大急ぎで読んだ。読みやすく種々啓発される好著である。実は、前に取り上げた『人新世の「資本論」』の中で、著者の斎藤幸平氏が、広井さんを「資本主義的市場経済を維持したまま、資本の成長を止めることができるという」、「旧世代の脱成長派」だと、厳しく叩いていた。そのため、どんな反論、反応がなされるか、ということにも関心があった。しかし、笑いながら「ベストセラーの本の中で、〝古い世代の脱成長派〟と言われていて、光栄に思う」とはぐらかされた。〝大人喧嘩せず〟ということだろうが、ちょっぴり物足りない思いはした◆この本で、著者は、人口減少社会の最先端を走る日本が、将来(2050年)において、持続可能な社会であるために、何をせねばならぬかについての論点と提言を展開している。それは、①将来世代への借金のツケ回しを早急に解消②若い世代への支援を強化して、「人生前半の社会保障」に力点を置く③「多極集中社会」の実現と、「歩いて楽しめるまちづくり④都市と農村の持続可能な相互依存」を実現する様々な再分配システムの導入など10個に及ぶ。広井さんは、〝持続可能な「定常型社会」〟という概念を作り出した人だが、この言い方はいささかわかりづらい。むしろ「経済成長を至上目標にせずとも、十分豊かで破滅しない社会」と言い換えた方がいいのでは。縮めると、「脱成長で生き抜ける社会」とでも言えようか◆10の提言の中で、印象深いものを3つ挙げる。まず、③。高度経済成長期の日本は東京への一極集中できたが、これからの人口減少社会では、むしろ逆。人の流れを全国へ拡散し、多極集中となるように、政治、行政がリードしていく必要があるということだ。「歩いて楽しめるまちづくり」がなされている一例として、姫路市が取り上げられているのは元同市民として嬉しい。駅前から一般車両の進入を廃し、水遊びが出来るサンクン・ガーデン(地下庭)が紹介されている。次に②。これまで老人、つまり「人生後半の社会保障」に主軸が置かれてきたが、これからは逆に子どもたちに目線を向けた社会保障の充実をめざせという。最近の自公与党、とりわけ公明党はしきりに、乳幼児から小中高生への教育無償化を叫び実現させているが、まさにこの路線と軌を一にしている◆最後が①。現役世代は自らの「借金」を、ひたすら将来世代にツケ回しをしようとしてきた。広井さんは、「困難な意思決定を先送りして、〝その場にいない〟将来世代に負担を強いるという点で、(諸外国と比較しても)最も無責任な対応」だと厳しく非難する。その上で、「富の規模と分配について、どのような理念の下にどのような社会モデルを作っていくのかという、『ビジョンの選択』に関する議論を日本は一刻も早く進めるべきなのである」と警鐘を乱打している。だが、この本が出されて既に3年近くが経ったが、全くその気配はない。参議院選が終わり、これからの3年は大きな選挙はないと期待されている。この時間を、ぜひこうした国の骨太なビジョンを作成するために費やして欲しいものだ。ともあれこれからの人口減少社会を考える上で大いに参考になった。(2022-7-28  一部修正)

 

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