【48】忘れ難いラストバンカーとの因縁── 西川善文『仕事と人生』を読む/9-4

 ラストバンカーこと西川善文さんが亡くなったのは、2年前の9月11日。今年は三回忌になる。生前に同氏が受けておられたインタビュー(2013年11月-2014年2月)をもとに、出版された『仕事と人生』を読んだ。この本を読むきっかけは、ある中小企業の従業員の皆さんを前に、同じタイトルでお話をする機会が9月14日に予定され、参考になればと思ったことが一つ。もう一つは、この人と私には、一つだけだが忘れ難い接点があったことがきっかけである。それは衆議院総務委員会の場でのこと。日本郵政公社社長として、同委員会に出席を願ったのだが、その時の委員長が私だった。三井住友銀行の頭取を終え、郵政民営化直後の中枢として活躍をしておられた同氏。そして、私たちにはそれなりの因縁があった◆それは、私が銀行マンの倅であるということである。親父の背中を尊敬の眼差しで見ながらも、到底乗り越えられないがゆえに、その職業を選ばなかった。親父が私に銀行員になって欲しかったことは折りに触れて聞いていた。だが、その道に入ることの厳しさを知っていた私は、断じて避けたかった。親不孝者である。そんな私は親父が気に入らなかった新聞記者の道を選んだ。しかも、宗教団体が作った政党の機関紙という、ーおよそ銀行とは縁遠い位置にある「仕事」をすることにした。それには〝巡り合わせの妙〟があるのだが、ここでは触れない。2008年秋のことだ。実は私の高校の同期A君と後輩S君が住友銀行出身で、入社当時に西川さんの訓練を受けた身であったことも手伝い、ひと夜、4人で「仕事と人生」を語り合いもした◆この本は、「評価される人」「成長する人」「部下がついてくる人」「仕事ができる人」「成果を出す人」「危機に強い人」の6つの章からできている。亡くなられてから、急遽遺稿を、ということで、慌てて用意されたことが見え見えではある。生前に出された、バンカーとしての回顧録と、日本郵政との取り組みへの意欲を示された二冊の方が重い価値を持つ、と思う。しかし、より率直に西川さんのお人柄が滲み出ているのはこの本だろうと睨んだ。例えば、「わかしお銀行との逆さ合併」についてのくだりが興味深い。ご本人も正直に「私自身、『奇策』と言われるような『逆さ合併』などやりたくなかったが、生き残るためにはしようがない」と、述べている。「感傷的な思いを押し切り、私は住友銀行の法人格を消滅させた」と、小さい下位の企業を残し、大きい上位の方を切った経緯を明かす。ここにこの人の真骨頂がうかがえよう。失敗したら責任は自分が負う、強い気構えである◆この本を具に読んで、私には到底真似が出来ないことばかりだと、早々に白旗を掲げた。と同時に、私の仕事上のボスであり、上司であった市川雄一公明党書記長(元公明新聞編集主幹)を思い出す。このふたり、眼の鋭さが酷似していた。私とは正反対に6つのことがすべてできる人だったことは多くの人が認めよう。その市川さんが常日頃口にしていた言葉で忘れ難いのは、「百人を超える部下を持ったことのない人間に、真の意味での政治家は務まらない」というものがある。家族を含め生身の人々の生活をどう守るかということが寝ても覚めても気になる──こういった経験を持たない人間の責任感はたかが知れていると。それを聞くたびに、百人はおろか、まともな数の部下を持ったことのない私は恐れを抱いた。尤も、会社社長経験者なら政治家は務まるのか、と内心呟いたのだが。市川さんは、親父や祖父さんから地盤、看板、鞄を継いだに過ぎない2世、3世議員を批判したかったのだろう。西川さんも政治家になっていれば、いい仕事をされたに違いない。さて、『仕事と人生』をどう語るか。私風に行くしかない。会場を沸かせるぞ、と開き直っている。(2022-9-4)

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