女房殿に続いて息子が本を出したという親父の心境やいかに。永年の間、親しくさせていただいている先輩(もと神戸市議会議長)が、「親ばかですが」との断りつきで、佐伯伸孝『「本当に健康になる食」はこれだ!』という本を送ってきた(これまで韓国にまつわる本や教育のことについての本を幾冊か出版されてきた奥方については、亭主殿として音なしだったのだが)。この著者は、創価大学工学部を出てから米国マサチューセッツ大学医学部大学院博士課程を修了し、医学博士の資格をとった俊英だ。かつて一度だけお会いしたこともあるが、心優しい素晴らしき青年だとの印象が今に残る。彼はアメリカで10数年、バイオ研究に携わってきた。その所産を「メタアナリシス」という、色々ごちゃまぜになった複数の調査結果をひとつに統合することで正しい結論をだすという方法で、健康と食の関係に切り込み、予防医学の全貌を露わにして見せた。タイトルから想像するような、その辺に数多あるハウツーものとはまったく違うすごい本である▼この本で彼が言いたいことは次の3点に要約できる。1⃣野菜は多くの疾患の予防に効果的2⃣肉,脂質、炭水化物は要注意3⃣食品からとるビタミンなどは効果的だが、サプリは効果的とはいいがたい。さらにこれを縮めると、「肉、油、炭水化物は食べる量を意識してひかえめに,野菜はどんどん食べるほどよく、野菜不足はサプリでは補えない」となる。一言でいうと「野菜こそすべて」ということになろうか。この結論を彼が得たのは、食と健康にまつわる膨大な医療論文を研究した結果である。それをメタ・チャートという一覧表の形にまとめている。今時懐かしい折込みの付録にしてあるのはまことに嬉しい限りだ。これをしっかりと活用すると、いかにも健康をゲットすることができそうな予感がする▼今巷には真っ向から反するような食に関する情報が氾濫している。つい先日も私は知人に勧められて、大阪難波で開かれた沖縄温熱療法の講演会に臨んだ。私と同い年の女性の講師は、ご自身の病気の体験に基づいて温熱療法の大事なことを覚知されて、今大々的に普及に務めている。そこでは卵の大事さが強調されたほか、様々な健康と食事についてのアドバイスがなされた。彼女は卵は一日3個は食べることが望ましいということを強調されていた。しかし、一方では卵の食べ過ぎはコレステロールの増加に繋がるとの説もある。また、肉はどんどん食べてもいいとの説があると思えば、一方で食べ過ぎは禁物だとか。また、牛乳についても、酒についても、所説入り乱れており、何が正しく何が間違ってるかわからないことばかり。それでは一般人は迷ってしまうし、我が家でもしばしば見解がぶつかり合う。で、結局はどれもほどほどに取り入れようということになり、それらを補う意味でサプリメントに手を伸ばすというようになるのが専らだ。これに真っ向から挑戦して「野菜の素晴らしさ」を科学的に証明づけたのがこの本である▼一読して深い感銘を受けたが、同時にいくつかの気になるところがある。ひとつは、ご本人も述べているが、「野菜をたっぷりと食べる」ことは、病気の予防には有効でも、病気の治療には必ずしも効果はないということだ。当たり前のことだが、病気は治してからということになる。そういう意味では生活習慣病を始めとして、病気の問屋のような中高年にとっては、今更野菜をたっぷりとれと言われてももはや遅いとの気分になる。せめて肉も油も炭水化物も、そしてあれこれのサプリも取り入れて、残り少ない人生を謳歌せねばという気になってしまう。これって自然な人情のなりゆきではないかと思われるのだが、著者はどう思われるだろうか。恐らく親父さんは私と同意見に違いないと睨んでいるが。このあたりの記述に物足りなさを感じる。併せて第五章に「野菜中心生活のすすめ」の3節に「簡単な野菜料理でもこんなにおいしい」という料理のノウハウが書かれており、とっても参考になる。このところをもっと充実してほしい。わずか1ページ半しか割かれていないのは残念だ。ともあれ、若い人々にとっては、予防医学の粋を凝らしたこの本の所産は得難いもので、大いに活用すると健康な人生を送れること請け合いだと思われる。(2015・6・4)