【88】騙された後の種明かしに呆然━━ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』の解説(堤未果)を読む(上)/7-27

 戦争や自然災害などの危機に乗じて、多国籍企業などが富を奪うに至るメカニズムを『ショック・ドクトリン』と名づけ、同名の著作を著したナオミ・クライン。この本が世に出て既に16年が経つのだが、日本ではあまりこれまで知られずにきている。ここにきて、ようやく人の口の端にのぼり始めた。それは、国際ジャーナリストの堤未果氏によるNHK 「100分de名著」の同名の解説本とテレビでの紹介の力によるところが大きい。原書は勿論、日本語訳書も読まずして、解説書を取り上げる安易さには後ろめたさを伴うが、いっときも早くこの本の魅力を伝えたい◆彼女が示すそのメカニズムとは、①クーデター(あるいは大自然災害)によるショックが発生する②それに乗じて、IMF(国際通貨基金)を使って、新自由主義経済の手法としての民営化を導入する③外国資本が参入し、利益を掻っ攫う━━といったもの。1970年代半ばのチリの独裁政権誕生から、1980年初めのイギリスのフォークランド紛争騒ぎを経て、1990年代後半のアジア通貨危機などが典型例として挙げられる。これらの背後には、米国シカゴ大学のミルトン・フリードマン教授を中心とするシカゴ学派およびその弟子たち(シカゴボーイズ)の連携プレイがあった。このドクトリンは、後進国から先進国まで、資本主義国家は当然のこと、中国、ロシアなど社会主義国家をも巻き込んで、世界中を席巻した。更に21世紀に入ってすぐのイラク戦争では、まさにやりたい放題となった事実が暴かれていく◆これまで地球環境の悪化と共に起こる、自然災害の多発という事態に「大災害の時代」との呼称が使われてきた。そこには、天災に起因するものだけしか視野に入っていない。だが、改めてクライン氏によって、この半世紀ほどの〝人災に基づく時代の特徴〟を整理されてみると、「ショック・ドクトリンの時代」と呼ぶべきものが浮かび上がってくる。今に生きる我々現代人の足元に巣くった元凶は、憎むべき対象ではあるが、あまりに見事な騙しのテクニックと、スピード感溢れることの運び方に、種明かしをされてもただ呆然とするばかりだ。しばらく経って、国家とイデオロギーにばかりに眼を奪われ、国家をまたぐ多国籍企業とカネの動きに頭が回らなかった我が身の拙さが哀しくなる◆とりわけ、イラク戦争をめぐっての日本の対応は惨めだったという他ない。小泉純一郎首相のもとでの自公政権は、米英の軍事介入に同調し、「後方支援だから」と自らを慰めた。岡崎久彦、山﨑正和氏ら名だたる学者たちが、あの当時、やがてイラクには、民主主義の根が定着し、見事に立ち直るはずだと楽観的な未来予測をしたことを思い出す。米英両国首脳は、「大量破壊兵器の存在」に事よせて自らの暴虐を正当化したのだが、後にその事実が虚構だったことが明らかになった。彼らは自らの誤りをそれなりに認めた。しかし、日本では総括すら未だなされていないのである。(以下続く 2023-7-27)

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