「周辺国から解く 独ソ英仏の知られざる暗闘」とのサブタイトルが付くこの本が発行されたのは昨年2月末。ロシアのウクライナ侵攻とほぼ同時期。筆者と出版社は戦争勃発に驚いたのか、折り込み済みだったのかは分からない。「ウクライナ」に無知だった読者としては、この本に取り上げられた、先の大戦の舞台になった周辺国20に、ウクライナが入っていないのは画竜点睛を欠くと見えてしまう。と、いきなり、この本に注文をつけた上で、大国による戦争遂行の経緯に偏りがちの一般的な歴史記述に対して、小国の視点を重視するこの本の独自性を称賛したい◆小国の立ち位置でまず注目されるのは、ポーランド。この国への侵略が引き金になり、またユダヤ人虐殺の元凶の地となったアウシュビッツが同国内にあることから、ただひたすら蹂躙されただけの国に見えてしまいがちだが、さにあらず。著者は、自由ポーランド軍が「国家そのものが地図上から抹殺されてしまったにもかかわらず、「(欧州の)各戦域でドイツ軍と戦い、1944年の夏からはノルマンディーやオランダ、ドイツ領内でも激闘を繰り広げて、米英連合軍の勝利に少なからず貢献した」ことを強調する。また、ポーランドが「どれほどの苦難に直面しても決してギブアップしな」かったし、「誇り高い国民性」や「不死鳥にも喩えられる強靭な精神力」を持つという風に、過剰なまでに美辞麗句を連ねてほめそやす◆また、フィンランドについては、歴史的には硬軟取り混ぜての外交、軍事戦略を駆使して隣国ソ連と長く対峙してきたことで知られる。だが、大戦時にあっては、対ドイツ戦がこれに加わり、独ソとの「板挟み」状態となった。その苦労の末、大戦終結後にフィンランドが得たものは、ソ連の軍事支配をあきらめさせたうえに、「非共産主義の資本主義国として独立を維持することを容認」させたことだった。大戦中にソ連がいかにフィンランドに手を焼いたかがわかろうというものである◆独ソの狭間での苦難といえば、フィンランドに並んで、バルト三国(リトアニア、ラトヴィア、エストニア)のそれが挙げられている。1934年にソ連に併合された三国は、5年後独ソ戦の開始と共に、ドイツの対ソ進撃の通路と化す。実は当初はドイツをソ連からの解放軍的存在として捉える向きもあったが、やがてそれは失望することになる。このように、20の小国が置かれた位置について事細かに著者は書き上げていく。400頁にも及ぶ紙数を割いて「(これまでの歴史書は)大国の動向ばかりが記述され、周辺国兵士の戦いは、脇に追いやられたり、無視されることがほとんど」だったことを批判しているのだ。という観点からも、冒頭に述べたように、「ウクライナ」が全く欠落していることは訝しい。バルト三国と同様に、当初はドイツを救世主とする向きがあった彼の国について、なぜ触れなかったのだろうか。この辺り、この本の出版元系列の雑誌が補足的に場を提供したことをネットを通して知ったが、時すでに遅しの感は否めない。(2023-9-18)