ニクソンの失敗のリリーフ役だったフォードの後に登場したカーターは、本格的な政治信頼構築への立て直しを期待された。しかし、この人は国内的な問題処理というよりも、国際政治での活躍が記憶に残る。「人権外交」の展開で知られるが、補佐役として歴史学者のブレジンスキーの活躍があった。最も著名なのは、エジプトとイスラエルの和平合意への尽力であり、米中国交正常化やソ連との戦略兵器削減交渉の前進に寄与したことだ。のちに、ノーベル平和賞を受賞するものの、対イランでは、アメリカ大使館を占拠される「人質事件」を起こし、救出作戦でも失敗してしまい、大統領の権威は完全に失墜した。こうした過程を通じ、著者はこの人物には「世論を妄信し、支持率の上下に右往左往する傾向」があったと指摘している◆ついで、登場したレーガンは、俳優出身であり、テレビ番組の司会をも務めた。大統領になって、「小さな政府を核とする『新自由主義』のもと、『サプライサイド経済学』を実践」し、投資や雇用を活性化することに努めた。と共に、「悪の帝国」とのレッテルを貼ったソ連に勝利すべく「SDI(戦略防衛構想)」を推進し、ソ連の国防予算を拡大させ、最終的に〝軍拡戦争〟に巻き込むことに成功、財政破綻に導いたとされる。彼は、「俳優に大統領は務まるか」との批判に「俳優でない人に大統領が務まるのか」と反論した。「自らの政策をわかりやすい言葉で伝えて世論を形成し、市民の力を結集しながら国家の威信と繁栄を担保」して、「強いアメリカを復活させ、冷戦の終焉に道筋をつけた、傑出した指導者であった」と筆者は讃える。これについて、私はそうならしめた参謀役は誰だったのか。また後のトランプはレーガンを真似ようとしたはずと見てしまう◆ブッシュ(父)は、歴史上2組目の親子大統領だが、筆者は、彼をして「東西冷戦後の激動期に、民主・共和両党の利害関係に配慮し、中道政治を追求した保守政治家」で、「伝統的な〝共和党らしさ〟を体現した最後の指導者である」と高く評価する。既に見たように、後に続く息子も、トランプも惨憺たる存在ぶりが明確なだけに自然に首肯できよう。この人の実績は国内的には、ADA(障害を持つアメリカ人法)の制定で、従来の公民権法に含まれていなかった「障害」について、雇用差別を禁じ、あらゆる施設の利便性を法によって保障したことだ。外交では、「湾岸戦争」で優れた指導力を発揮し、クウエート解放を実現した。こうしたこともさることながら、私は前任者のレーガン大統領が道筋をつけた「米ソ冷戦の終焉」を、彼がゴルバチョフソ連大統領とのマルタ首脳会談で実現させた功績も大きいと思う◆次のクリントンは、「内政にあっては、制度改革や規制緩和で経済を立て直し、外交にあってはポスト冷戦後期における国際秩序の安定に寄与したリーダーだと位置付けられる。具体的には、ゴア副大統領の提唱した「情報スーパーハイウエイ構想」を後押しし、IT産業の勃興に寄与し、重化学工業重視からの転換を可能にした。また外交面では、中東での「パレスチナ暫定自治協定」の成立を主導したり、NAFTA(北米自由協定)の締結や、IAEA(国際原子力機関)の査察を拒否する北朝鮮に、カーター前大統領を派遣して、重油の提供と引き換えに核開発を凍結させるなど一連の実績をあげた。しかし、再選後に、前代未聞のスキャンダルが発覚した。ホワイトハウス内で女性インターンと性的行為に及んでいたというのだ。これによって、米史上2回目の大統領弾劾裁判にかけられることになった。辛くも罷免は逃れたものの、拭い難い政治的汚点を残した。これには、ケネディを深く尊敬していた彼が、著名な女優と浮名を流した先輩の負の側面を見倣ったのかと思わざるを得ない。また、彼が罷免されて、ゴア副大統領が後を継いでいた方が面白かったのではないか、との「歴史のイフ」に思いを馳せてしまうのだ。(2023-10-10)