待望の2巻目が出た。1巻からの熱心な読者のひとりとしての私には特別な思いがある。日蓮大聖人と出会った、つまり創価学会の信仰に帰依した大学1年の4月頃(1965年/昭和40年)は、公明党結成後半年ほどの時であり、それいらいずっと「政治と宗教」を考えることが人生の主たるテーマになってきた。創価学会の信仰を体内に取り入れ、その魅力を人に発信する行為と、公明党を理解し世に喧伝する営みが〝人生自動車〟の車の両輪になってきた。そんな私にとって、創学研究所による、信心、信仰に学問的な考察を加えようという挑戦は、実に魅力あふれるものである。あたかも目の不自由なマラソンランナーが優秀な伴走者を得た思いがするからだ◆「信仰学」をテーマにした1巻に続き、2巻目の主題は「日蓮大聖人論」。ありていに言えば、仏教は釈迦でなく、日蓮大聖人が究極の仏だという「日蓮本仏論」への推移と帰着を追求している。釈迦が創始した仏教において、日蓮が本仏とは如何なる帰結なのか。日蓮という人物は「4箇の格言」で、他宗派への断定的評価付けをあらわにしていったのはなぜなのか──今になお曖昧さが消えない古くからの命題を大事な物入れから取りいだすように、懸命に頁を繰っていった。国際社会がロシアの仕掛けたウクライナ戦争に四苦八苦していたところに、ハマスのイスラエル攻撃に端を発したパレスチナ戦争の再発という複合的悲劇。今や、世界は第三次大戦へと向かいかねない様相で、不気味な恐怖と不安が一段と漂う。その時だからこそ、「宗教再発見」であり、「仏教再考」が求められる──いやそんな悠長なことでなく、「日蓮仏法」の現代的展開である「池田思想」を直ちに広めなければならない。そんな思いが募る。この本の第2章での松岡幹夫さんの「日蓮本仏論再考──救済論的考察」は上下2段組み169頁にも及ぶ大部なもの。門外漢には詳細を究めた議論の連続的展開で、極めてマニアックなものに思われる。だが、あたかもこんがらがった糸をみごとにときほどくような、微に入り細を穿った表現ぶりは、注意深く読めば不思議なほど面白さに満ちている◆今回の試みでまず私が注目したのは、蔦木栄一さんと三浦健一さんという気鋭の若手論者による小説『人間革命』と『新・人間革命』についての考察であり、それに対する佐藤弘夫氏、末木文美士氏という2人の外部学者による講演とそれを踏まえた討論である。とりわけ、佐藤、末木両氏による率直な問題提起や提言は、身内だけの紅白戦に突如外部から武者修行者の挑戦を受けたかのようで、緊張を孕むと同時に面白い議論が期待された。例えば、佐藤氏は、日蓮本仏論について、特権的な宗教的権威を日蓮ひとりに集中させる論理では、「教祖の権威が絶対化され、一人歩きして非常に危険な事態を招きかねません」とし、更に後段でも「誰か特別なひとだけを絶対視するような権威を作らない」ことを望む意向を繰り返している。明らかに、これは宗祖だけでなく、創価学会の側にも向けられた忠告だと思われる。さらに、同氏は、後半の「総合討議」の場で、地球上の全生命が生き残れるかどうかが問われる厳しい時代に入ったにもかかわらず、「創価学会の教学は相対的におとなしく見えてしまう」と、率直な見解を述べている。これは創価学会そのものがウクライナ戦争などや破壊が進む地球上の自然環境の現状に対して強い発信をしていないことを意味していよう。この2点について、研究所側からは直接の答えが読み取れないように思われる。前段の指摘にはノーコメントだし、後段については、〝生々しさの意味〟を取り違えているように私は見てしまう。ここは、もっと世界の現実打開へ発信すべきだとの佐藤氏の指摘だと思われる◆一方、末木さんは、鎌倉時代の仏教について、「仏教の総合化が図られていき」、「宗派対立の仏教ではなかった」とする一方、「従来は『鎌倉仏教は一つを取ったらほかは全部否定する』という考え方が広がっていました」が、「これはまったく間違っています」とした上で、「日蓮についてももう一遍考え直す必要があるだろう」と述べている。これは私のような〝従来的考え〟にとらわれた人間にとっては、強烈なインパクトで響く。しかし、このくだりについて噛み合った議論が見られないのはどうしてか。私が見落としているのかもしれないが、ぜひ、突っ込んだ議論が聞きたかった。他方、末木さんの「創価信仰学はキリスト教の神学をモデルにして作ろうとしている」との質問に対し、松岡さんは、世界192ヵ国・地域に広まっているSGIの世界布教を本格的にやろうとすると、「世界宗教であるキリスト教をどうしても参考にせざるをえません」と述べ、現状の取り組み状況を率直に明かしているのは納得できる。これまでキリスト教神学=佐藤優風神学をモデルにされ過ぎてるのでは、との意見も散見されるだけに、大事なやりとりであると私には思われる。ともあれ、思索の波音が高まり聞こえてくるような貴重な研究の所産にめくるめく思いを禁じ得ない。(以下続く 2023-11-14)