「再野生化する地球」にあって、人類が生き残るための大転換の必要性を強調してやまない、今話題のジェレミー・リフキン氏の『レジリエンスの時代』━━ここでの「代議制民主政治が分散型ピア政治に道を譲る」という一章がとりわけ私には興味深く迫ってくる。民主政治の行き詰まりを指摘する声はあまた満ちていても、それに代わりうるものとなると、直ちには思いつかない。そんな中で著者が注目する「分散型ピア政治」なるものは、世界各地で効果を上げていて興味深い◆そもそも「レジリエンス」とは何か。そして「ピア」とは。著者(訳者)は、効率を重視する「進歩」の時代から、今世紀後半には「適応」を重んじる「レジリエンス」の時代へ移行すると、表現している。あえて訳語を与えていないのだが、一般的には「回復する力」を意味する。私としては「蘇生」の意味合いを持たせて理解したい。また「ピア政治」については、「対等者政治」との訳語をあてている。これも聴き慣れぬ言葉でイメージしづらいが、ギリシア語に由来する民主政治(デモクラシー)を踏まえた英語の造語である。裁判における陪審員制度が近いかもしれない。市民の中から、選挙ではなく、無作為に選び出された人たちが、統治に関わる意思決定を能動的に行うというのだ◆ピア議会で最もポピュラーなものとして導入されてきているのは、「参加型予算編成」と呼ばれるもの。自分たちで予算を組むとは魅惑的ではないか。ことの発端は1989年にブラジルのある州でのこと。労働者党がこの地の主導権を握ったことから始まった。地域内のコミュニティ組織を中心に新たな予算提案を募る一方、代表者を選んで「ピア議会」を開催し、皆で話し合って合意を得ていった。もちろん最初からすんなりまとまったわけではなく、あれこれと試行錯誤を繰り返したようだが、それなりの成功を収めた。その結果、上下水道の普及率、医療と教育に回される予算の割合、学校や道路建設が飛躍的に増えていったと報告されている。「ピア議会」の市民参加者数は約10年で、40倍になったという。入れ替わり立ち替わり、普通の市民たちが統治を議論する場に出ていったというわけだ◆現時点で、こうした仕組みを用いて、世界各国の地方自治体で参加型予算編成が積極的に行われているケースは、ニューヨークやパリを含めて一万を超えているというのだから驚く。今や、教育、公衆衛生、警察活動に関するコミュニティの監視、インフラ計画などへと対象は広がっているともいう。市民社会組織の時代の到来として大いに注目されよう。選挙で選ばれた政治家に任せて当たり前だと思っているばかりの日本社会では考え辛い事態だが、自分たちが選んだ政治家の酷い現実にぼやいているだけではいけない。こうした市民参加型統治の仕組みをわれわれも取り入れない手はない、と思われる。(2023-11-11)