【110】時代の変化と人間の英知との格闘━━宇野重規と聞き手・若林恵『実験の民主主義』を読む/1-8

 正月早々にテレビで『令和ネット論━━2024年大予測』(NHK・Eテレ1-3放映)を観た。イーロン・マスクと生成AIが世界をどう変えるかについて、若い専門家を中心に討論する番組だった。AI研究家、IT評論家らによる発言を聴いていて、言い知れぬスピード感で世界が変化しつつあることを、改めて脅威を持って聞きかじった。方向は真逆だが、津波が一瞬にして町の姿を一変させてしまったと同じように、デジタルが社会の有り様を一変させている現実をグイと突きつけられた。これとほぼ同時に、標題にあげた本を毎日新聞の『今週の本棚』(1-6付け)で発見して購入、正月三連休第二弾の最終日に丸一日かけて読破した。テレビで観たものの背景と意味するものを活字で解説されたように思えて、確かなる手応えを示されたような気(これからの思索が大事だが)がした◆民主主義研究の重鎮である政治哲学者とデジタル文化に造詣が深い気鋭の編集人との〝やりとり〟は、実にユニークで読みやすい。この本は、歴史の知恵(トクヴィルの思想)を紐解きつつ、目の前で息詰まる民主主義の現状を、最先端の技術を使った実験をするかのように読み解き、打開する方向を模索したものである。その魅力は、通常見られるような学者の一方的な知的所産の披歴だけに終わっていないところだ。トクヴィルがアメリカ民主主義をどう見据えたかについて、宇野さんは深い洞察力を遺憾なく発揮して解説しながら、民主主義の現状打開への糸口を提示する。それを聞き出しながら、現代最先端のデジタル事情をファンダムなどの動きを通じて若林さんが巧みに議論を広げ、まとめゆく。学者へのジャーナリストのインタビューではなく、時代を超えて姿を現したあたかも知的モンスターとの付き合い方を、相互方向で論じあうという趣きがある。知的興味を掻き立てられ考えさせられたことは間違いない(正解はわからないのだが)◆民主主義に対する一般大衆の不満が日本中に充ち満ちてきていることは周知の通り。このところ私は世界、日本におけるコミュニティ作りへの挑戦や、くじ引き民主主義の取り組みなどについて示唆に富む本を読み、現状打破への道を探しつつある。この本においても著者たちは、民主主義の理想とでも言うべきゴールに向かって思考実験を披露しており、2つの重要な問題提起をしている。1つは、執行権(行政権)の民主的コントロールの可能性だ。つまり、選挙だけではなく、行政に対する直接的な影響力の行使へのアプローチである。もう一つは、新たなアソシエーション(結社)としてのファンダム(支持者グループ)に着目している点である。芸能人やアスリートたちへの無数のファンたちが自発的に情報を共有して「推し活」をサポートし合うのと同様に、政治参加の新たなモデルを見出せないかというのだ◆切り口は確かに斬新である。立法権行使より行政権のあり方の改革を迫るというのはユニークである。また、旧来的な政党よりもファンダムの方が何だか楽しそうで魅力に溢れている。しかし、現実の実効性はどうか──などと野暮なことは言わない方がいいだろう。ここは、能登半島の地震被害者たちをどうするかとの問題設定からスタートするのが手っ取り早いかもしれない。今そこに倒れ、途方に暮れている人びとが助けを求めている。それを目の当たりにしながら、今行政は悪戦苦闘し、政党、政治家は混乱の最中で妙案を見つけ出し得ていない。影響力を行使するチャンスだ。今こそ、無償の善意の持ち主たちがファンダムのように、知恵を出し合い、救済の手立てを講じる仕組み作りができるかもしれない。ここに新たなる民主主義のスタートに直結する一つのヒントが隠されているように、私には思われてならないのだが。さて。(2024-1-9)

 

 

 

 

 

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