【122】ウクライナ戦争の終わらせ方━━自衛隊を活かす会編『戦争はどうすれば終わるか?』を読む①/3-31)

 この本は、私の古くからの友人である柳澤協二氏(元内閣官房副長官補)が代表を務める「自衛隊を活かす会」が編纂したものだ。柳澤氏や伊勢﨑賢治(東京外大名誉教授)、加藤朗(国際政治学者)、林吉永(元防衛研究所戦史部長)らの4氏が昨年9月25日に集まって行った議論がベースになっている。構成は、第1章で、「ウクライナ戦争の終わらせ方を考える」のタイトルのもと、全員の発言が披歴され、第2章で討論が収録されている。さらに、直後に起こったガザの戦争(イスラエルとハマスの戦い)をめぐって、第3章「人道危機を考える」で、4氏の発言が再録され、最後に第4章「戦争を終わらせた後の世界に向けて」の表題のもと、4人の寄稿文が掲載されている。いずれも極めて興味深く、読み応え十分な中身である。ここでは、2つの戦争ごとに、4氏の発言のうち私が注目したものをまとめた後、「戦争」の総括を試みたい◆まず、ウクライナ戦争の終わらせ方についてから始める。柳澤氏は、戦争の大義を両国それぞれに見たうえで、一般的な戦争の終わり方を考えては見るものの「現在進行中のこの戦争が終わる論理が見えてこない」と嘆いている。その中で停戦をどう実現するかについては①2022年3月のウクライナ提案(●NATOに加入しない●クリミア問題は15年棚上げ●東部2州の扱いは首脳同士の協議に委ねる)は合理的なラインである②国連は安保理ではなく、もっと大きな国際世論の多数に力を与える方向での改革が望ましい③サウジアラビアやアフリカ連合などグローバルサウスの動きが注目される──などと述べる一方、停戦については、当事者双方だけでなく国際社会も不満を抱えることになるし、終戦を語るには、我々がどういう戦後の状況を望むのかを考える必要がある、と強調している。ただし、戦争はこうすれば止まるというアイデアは出せない、と締めくくりの発言はいつものこの人らしくなく弱気に見える◆この柳澤発言に対して、伊勢﨑賢治氏は──この人も私の古い友人だが──開戦後2ヶ月経った2022年4月に、石破茂、中谷 元の防衛大臣経験者との3人で、「提言案」を作ったことを紹介している。その中身は、「①国連緊急総会による停戦の勧告②国連の仲介による停戦合意の実現、そして③国連による停戦監視団の派遣を、日本政府として正式に働きかけること」であった。さらに、これとは別に同氏独自のものとして①現在の戦闘地域に「緩衝地帯」を設け、軍事行動を禁止する②緩衝地帯に、国連が主導する中立・非武装の国際監視団が入り、停戦状態を維持する③緩衝地帯にはウクライナ東部のドネツク州バフムト、あるいはすでに国際原子力機関が常駐するザポリージャ原発を提案。緩衝地帯は複数つくり、停戦状態を広げていく──といった具体的な「停戦案」を提示している。国連PKO の幹部として世界各地の紛争現場で武装解除の指揮に当たった人とらしい巧みな視点だと思われる◆これを受けた討論の冒頭で、柳澤氏は「伊勢崎さんのお話を聞いていると、難しいけれど、あるいは難しいからこそ、とにかく誰かが動いて話をしなければいけないというのは、まったくそうだと思います。だから、即時に停戦ができるという幻想を持てるわけではないけれど、そして、私にはまったく力がないけれど、やはり停戦に向けて、誰であっても、当事者間の対話を求め続けることが最低限必要なのですね」と同意の声をあげている。元防衛官僚ではあるものの反政府の立場に変化した柳澤氏の微妙な立ち位置が伺えて興味深い。加えて、加藤朗氏が「現実空間と言説空間の情報の相互作用」という注目すべき発言をされた。戦争そのもののリアルな展開と、当事国や周辺国のリーダーの言説とが、相互に重大な影響を及ぼしあうというのだ。これについて柳澤氏は「新たな秩序観」の共有と言った問題を提起して、話題は進展していくのだが、そこいらは次回に回したい。(2024-3-31 つづく)

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