【128】今なお虚しい響きは新しく━━R・エルドリッジ『オキナワ論─在沖縄海兵隊元幹部の告白』を読む/5-12

 赤涙滴り落つとはこのことに違いない。この本を読み終えての正直な感想である。在沖縄海兵隊の政務外交部次長だったロバート・エルドリッジ氏がその立場を解かれた事件からもう10年余が経つ。そのいきさつをめぐっての彼の「告白」を今ごろになって読んだ。事件の顛末もさることながら、彼が当時提起した問題の大半は今なお殆ど解決していない。その意味では、改めて日米関係における沖縄の存在を考える契機に、大いになり得る。彼とは私が現役を退いたこの10年余の間に多くの交流の時を持った。しかし、不幸にしてこの「告白」を読まないで付き合っていたためか、肝心要の彼の心の中を恐らく理解しきれていなかった。現役時代の我が持論をただ押し付けるだけに終わっていた。空回りの議論と誤解の連鎖を痛切に反省する◆ことの発端は、米軍基地前での反対運動の様子を撮影した映像を彼が公開したことに始まる。これが「参謀長の許可なく、メディア関係者と接触した」との咎めになり、更迭されるに至った。事実と相違する報道が氾濫する中で海兵隊の名誉が傷つけられたと彼は判断した。映像を公開して真実を伝えたいと考え、行動に踏み切った。ここから沖縄におけるメディア(琉球新報と沖縄タイムズ)の有り様に対して、痛烈な批判の刃を斬り込む。「平和運動家を背後から不当逮捕した米軍の占領者意識というでたらめなイメージ」で、「感情論やレッテル貼りをするような言論には価値を認めません」と、どこまでも厳しい。一方で、辺野古移転の根拠にあげられる普天間基地が決して言われるような危険性がないことを丁寧に解き明かし、彼の持論である勝連構想のメリットを強調してやまない。また、かの3-11東日本大地震に際して彼が発案し、実現させた気仙沼市大島での「トモダチ作戦」の防災協力の展開については、今後に繋がる明るい展望として語ることをも忘れない◆私が彼と初めて会ったのは、この事件の起こる少し前のこと。普天間基地の視察に訪れた私に、現地説明に応じてくれた。その時の会話風景が今も瞼に残る。沖縄での海兵隊による婦女暴行事件の顛末など、私は、日米地位協定の歯痒い現実を根拠に、あれこれと興奮気味に米軍批判を捲し立てた。それに対して冷静沈着な面持ちの彼から、筋道立てた反論がなされた。議論は平行線のまま。それで彼とはお別れしたと思っていた。だが、さにあらず。しばらく経って、神戸の異業種交流・北野坂会の場で偶然再会した。両人とも初対面当時の肩書きは変わっていた。そこでまたも論戦が続く。幾たびも会うごとに議論は蒸し返された。私は日本のホストネーションサポートに比べて、米側のゲストネーションマナーが悪すぎるとの論法を切り札のごとくに使った。彼は沖縄の「反基地運動」を支える「ペンの暴力」を指弾し続けた。彼がNOKINAWA(ノーばかりの沖縄)というので、こちらはDAMERICA(ダメなアメリカ)だと言い返す。論争は果てることはなかった◆この辺りのことは、拙著『77年の興亡──価値観の対立を追って』の第3章「変わらざる夏──沖縄の戦後」に詳しい。ただしこれは、沖縄における彼の隠された振舞い(不幸な女性を救う活動に挺身していた)を知って、大きく揺らいだ。米帝国主義を紋切り型に一刀両断するだけでは通じない、自由で広いアメリカの良心の体現者としての側面を見逃していたのではないか、と。そして今回この古い「告白」を読んで、自論に変更を余儀なくされるものが湧き上がってきたことを告白せざるを得ない。随分と回り道をした。何がこうさせたのか。私の「新聞記者稼業」への執心か。それとも「国会議員特有の傲慢さ」か。はたまた「被占領国民の植民地根性」か。沖縄における新聞メディア両翼のペン捌きを左翼イデオロギーのなせるものではなく、「沖縄ナショナリズム」のためだと、強く見過ぎたせいかもしれない。もう一度、根底から日米沖の関係を考え直して欲しいと、この本が呼びかけているように聞こえてくる。(2024-5-12)

【他生のご縁】交流は地元から全国まで幅広く

ロバートさんは兵庫県川西市在住。ある時、地域の問題で相談したいことがあるので市議を教えてくれと頼まれました。紹介した市議と交遊が深まり、市議選に際して応援演説までして貰う仲になったと聞き、喜んだものです。

ご自宅を先年、地元市議と共に訪れました。私が関心を持つ話題をだすと、直ちに関係者の名刺や資料を引っ張り出してくれました。それは国会周辺から島根・奥出雲、福岡・北九州市へと実に幅広く奥深いものがあり、学者を超えた人間力の厚味ぶりを垣間見ました。

先日、大阪での共通の友人のセミナーに遅れて行ったときのこと。汗をふきながら講演を聞きだそうとしていると、直ぐにメールが。「前方右を見てください」と。目を向けると彼のにこやかな顔がこちらを向いていました。

 

 

 

 

 

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