【133】考える糸口がいっぱい──党理論誌『公明』7月号の読みどころを探る/6-15

 公明党の理論誌『公明』がいま面白い。このブログ『忙中本あり』では初めてのことだが、7月号を取り上げたい。僅か80頁ではあるものの、山椒は小粒でも何とやらで、中身は鋭く深く重い。毎号特集を組んで、3-4本の論考が掲載される。今月のテーマは、「成長型経済への転換」で、4人の論者が①半導体産業の育成②賃金と物価の好循環③男女間の賃金格差解消④日本の活性化を促す──を論じている。このうち最も注目されるのは、①での黒田忠広(東京大学特別教授、熊本県立大学理事長)による半導体産業の見通しである。凋落したとされるのは❶事業環境の変化❷投資戦略の遅れ❸産業政策の不手際などが原因。厳しい冬の時代を経験したが、それを乗り越えた。今は、らせん階段を駆け上がるイメージで捉えられ、世界水準に近づいているとの認識を示す。その上で、先進各国がそれぞれの強みを持ち合うことが不可欠な国際協調の時代を迎えており、「半導体を巡って、覇権を争うのではなく、共通の資産、人類共有財産として世界の繁栄をめざす」という。「日本手遅れ説」を真っ向から否定する楽観論に私は驚く一方、希望を抱いた◆特集の中で興味をそそられたのは④の保田隆明(慶応大総合政策学部教授)の『日本の活性化を促す物語性が必要──「ナラティブ経済学」の視座から考える』である。冒頭から、ふるさと納税、新NISA(少額投資非課税制度)、ChatGPT(生成AI=人工知能)を三題噺のごとく持ち出す。お茶の間や居酒屋で盛り上がる議論の尽きないテーマだと。それこそ「ナラティブの力」の発揮しどころだという。「ナラティブ経済学」とは、一言でいえば、友達につい話したくなる物語性があり、たとえは悪いがウイルス感染のように短期間に広がる特質を持つものを指す概念だ。保田は、「一般国民の暮らしぶりの全体的な改善と社会分断の緩和にも貢献できるものと思われる」と、希望的観測で結んでいる。私など早速、今夜の「酒の肴」にしてみたくなる◆この理論誌が持つ最大の特徴は、当たり前のことだが、公明党そのものを考える素材を提供してくれる論考の存在である。今月は浜崎洋介(京大特定准教授、文芸批評家)の『日本の伝統的価値に棹さす中道政治への期待──公明党に求められる中間共同体の賦活』がそれだ。凡庸な身には、いささかわかりづらい論理構成だが、大事な問題提起がなされている。ここでは公明党に突きつけられている3つの注文についてのみ触れる。浜崎の主張を私なりの解釈と言葉で要約すると、一つは、日蓮仏法に依拠する宗教団体が作った公明党は本来、日本人の伝統に棹さす政党ではないのか。もっと「中道」に自信を持て。二つ目は、偽善と欺瞞の体制である「日米安保」は、真っ当な意味での「軍事同盟」足り得ていない。強靭な「同盟」を模索するために、公明党は逃げずに一度は「離米」を考えるべきだ。三つ目は、今、最も政治に求められているのは、中間共同体の賦活以外のなにものでもない。停滞した現状を招いた元凶は新自由主義(緊縮政策)にある──この3つであろう◆それぞれについて私の見解を述べたい。一つ目は、宗教政党としてもっと旗色を鮮明にすべしとの論調を時に掲げる佐藤優(元外交官、作家)と共通する視点だろう。他の政党との差異が際立つ存在であるにも関わらず、肝心の部分が曖昧に見えるとの指摘に身がすくむ思いだ。「自公連立20年」のなかで、どちらがより相手に影響を与え、感化させたのか。原点の戒めがよみがえってくる。二つ目については、かつて公明党は、「日米安保の段階的解消」から出発した政党であり、在日米軍基地の総点検を実施するなかで、真剣に「離米」を考えた歴史を持つ。国際政治の現実に呼応する過程で「日米安保堅持」に転じた。今も考えることから逃げてはいない。惰性は否めないにしても。三つ目は、とりわけ安倍第2次政権から本格化してきた課題である。経済格差をもたらした根源がアベノミクスにあるにせよ、連立のパートナーとして、その攻めからは逃れられない。歌の文句じゃあるまいし〝時の流れに身を任せた〟で済まさず、総括する必要があろう。ともあれ浜崎論考は刺激に満ちている。国会が閉幕したら衆参両院議員は正面から向き合って考えて欲しい。(敬称略 2024-6-15)

 

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