2001年から5年5か月の間。小泉純一郎氏は首相の座にあった。2009年に自公政権が民主党に負けてひとたび下野することになった総選挙には不出馬。次男の進次郎氏に後継を託し政界を引退した。その2年後に東日本大震災とそれによる福島第一原発事故が日本を襲った。この事故のあと、在任中の「原発推進」の立場を翻し、「原発ゼロ」を主張するようになった。その理由をこの本(2018年出版)では、悲惨な風景を突きつけられて、「内外の原発に関する本を数えきれないほどたくさん読んで勉強した」結果、原発の「安全」「低コスト」「クリーン」は全部ウソだったと気づいた、としている。「(首相時代に)騙されていた自分が悔しく、腹立たしい」との心情を吐露して。現役時代から、率直な物言いと歯切れの良さ、感性豊かな振る舞いに定評のあった人らしい「方針転換ぶり」に、〝パフォーマンス過多〟と見る向きもある。だが私が見るところ、そうではない。〝日本崩壊の地獄〟を危うく回避し得た僥倖に胸撫で下ろし、かつての自らの過ちへの責任を感じるが故の一大決心だと信じる。小泉内閣最後の厚生労働副大臣として曲がりなりにもお支えし、その人となりを知っているがゆえに◆この本の構造はいたって簡単。原発推進派、政府のいうウソをばらし(第一章)、原発をゼロにした後、自然エネルギーが代わりを果たす手の内を明らかにする(第二章)。第三章は一と二をまとめて、震災が招いた「ピンチをチャンスに変えよう」と呼びかけている。ただ、自民党における原発推進派は根強く、小泉さんの呼びかけに簡単に応じる向きはそう多くない。公明党にも〝原発推進確信犯〟がいる。現国交相の斎藤鉄夫氏である。この人は原発無くして日本の経済発展はないと公言してきており、現役の頃の政務調査会の場で原発の段階的解消を主張する私との間で論争をした。その後は党が公式の政策として「着実に原発ゼロに向けて進む」との方針を掲げてきている。表立っては抑えていても内実は分からない。そう簡単に自説を曲げないはずと私は睨む◆小泉さんは論語の「過ちを改むるに憚ることなかれ」を引き合いにして「これまでの失敗を反省してあやまちを改めなければいけません」と強調している。しかし、残念ながら元首相のその言を額面通り受け止める空気は日本にはない。2013年の都知事選で小泉さんが、原発ゼロを掲げて立候補した「細川護煕候補」を応援したことを日本中の人が知るに至っても、同様である。その後3年経ちこの本が出て、さらに8年が経った今も変わりそうにない。なぜか。理由は恐らく2つ。一つはご自身への民衆の不審である。原発に代わる再生可能エネルギーとりわけ太陽光発電関連の推進企業と小泉親子の関わりを指摘する向きがあるのだが、その疑惑が払拭され得ていないからだ。もう1つは、政治家全般への不信である。自民党の派閥絡みの政治資金集めという名の裏金作りは極限まで政治不信を強めている。論語の「信無くば立たず」が示すように、政治そのものへの信頼が完全に断たれてしまっている感が強い。そんな状況下に自民党出身の元首相が何をいえども空しく響く◆小泉さんは、この書でしきりに、野党は既に「原発ゼロ」に賛成なのだから自民党さえ変わればよく、総理が原発ゼロにすると号令すればできる、と叫ぶ。その通りだ。だがことはそう簡単ではない。小泉さんは安倍首相(当時)に「騙されるなよ」と言っても「苦笑するだけ」だと書いている。先輩首相として、そんな言葉かけだけでお茶を濁さずに大議論をして説得ぐらいして欲しかったと思う。その機会はもはや望むべくもないが、後継の首相たちに迫ったとの話も寡聞にして聞かないのは残念である。尤も、この本の末尾に50頁にも及ぶ「注」がついており、その大量の注の監修をしたのは、なんと立憲民主党の政調メンバーである。驚くべき自民、立民の原発政策の協調ぶりであり、小泉さんの覚悟のほどが伺える。(2024-7-6)
【多生のご縁 総理就任直後の予算委質問に立った日の記憶】
2001年4月に小泉純一郎首相が誕生した後に、私は質疑に立ちました。「小泉首相は、女性閣僚や気鋭の幹事長を選んだりして、まるで季節外れの大雪を降らせたみたいですが、汚い自民党政治を雪で覆い隠しても、すぐに雪は溶けて流れりゃ、以前より汚くなる」と言いました。この喩え「最高だ」と後々自賛しまくったものです。
また、「自公関係は日米関係に似ている。公明党は自民党のいいなりだし、自民党は米国に言われるままだ」ともいいました。小泉さんは「そんなことないぞ。公明党は言いたいこと言ってくれてるよ」と自席から野次ってました。懐かしい思い出です。
副大臣時代に開かれた首相を囲む会議の場で、仕事の現況を問われました。私はエイズ撲滅キャンペーンの一環としてスーちゃん(キャンディーズの故田中好子さん)と一緒に新宿駅前に立った活動報告をしました。これをめぐっては〝珍問答〟が続きました。紹介したいところですが、もはや「お蔵入り」の話題なのでやめときます。