【140】あなたも私もみんな揃ってがんになる?━━中川恵一『がんの練習帳』を読む/8-3

 この本のまえがきには、「『死なないつもり』の日本人へ」とのタイトルがつけられ、書き出しは「日本人のおよそ2人に1人ががんになります」で始まっている。そして、65歳以上の高齢者に限れば、2人に1人ががんで死亡している、と続く。だが、現実には現代日本人はあたかも死なないつもりで生きてるようだ、と。どうしてだろう。恐らく心で思ったり、口に出したりすると、きっと実現してしまうとの、日本人特有の〝縁起担ぎ〟的傾向が災いしているのに違いない。なるべく日常的生活の中に〝死にまつわること〟を遠ざけ、考えないようにすればいい、というわけだ。しかし、著者はそんなことでは、がんになって慌てふためくのがオチで、「不本意な治療を受けてしまい、後遺症に苦しんで後悔する」ことになると警告する。そして「がんになる前に、がんを知る「練習」が必要」なことを訴えている。私はかねて中川恵一さんと知己を得てきた。だから、〝がんについての教え〟は知ってるつもりだった。だが、この本を読むと、改めてうーむと唸ることばかり。かじっただけで、実は何も身についていないことを思い知った◆「練習帳」と銘打ったこの本では、練習①が総論で「本当にがんを知っていますか?」とのクイズから始まって、がんの全体像を描く。その後、②肺がん③乳がん④前立腺がん⑤直腸がんの4つの「闘病記」がリアルに公開されていく。練習⑥では「余命」をめぐる「体験記」でトドメを指す。今風に言うと、マジ面白くてヤバい読みもので構成されているのだ。実は私の母は胃がんで還暦前に亡くなり、父は喜寿を祝ったものの80歳直前に膀胱がんなどで逝ってしまった。そんな両親の経験から、自分も死ぬ時は、胃がんか膀胱がんのどちらかだろうと思いこんできたが、この本を読んで、「がん遺伝説」は誤りだと知った。がんは「悪い生活習慣」に起因し、「検診サボタージュ」が手遅れを招く。つまり、予防には、「生活習慣の改善」と「定期的な検診」が最善の策というわけだ。それに、日本では今、胃がんや子宮頸がんなど「感染型」のがんが減っていて、増えているのは前立腺がんと乳がんが多いことも恥ずかしながら知らなかった。食生活の欧米化、肉食型が原因である◆4つの闘病記はいささか不謹慎ないい方だがめっちゃ面白い。例えば、「前立腺がん」については、原宿のマンションに夫婦で暮らす63歳のお金持ちの男性の「性機能の維持」をめぐるケース。高級クラブの女給との秘密の関係で揺れ動くドラマ仕立てなのである。「手術・ホルモン治療・放射線治療」という3つの主な治療法と〝勃起との関係〟を巡って、医師と患者、その妻、その愛人が絡み合う非喜劇が展開される。他方、「乳がん」については、43歳のバリバリのキャリアウーマンのケース。最初に診て貰った医師から「乳がんです。お乳はとった方がいいですね。入院の手続きをして帰ってください」とにべもなく告知される。彼女それには「先生、その言い方はひどくありません?初めからお乳を残す気がないんじゃないですか!私、結婚前だし」と激しくあがらう。医師は機嫌をそこね「まずは命の心配をしたらどうですか。いやなら、お乳を残せる医者を探したらいいでしょ。私はもう知らないから」と突き放す。陰鬱になりがちな話題がユーモア交りで巧みに料理されていて味わい深い◆更に圧巻は、巻末の〝最期の迎え方〟。著者は、告知される「命の残り時間」の精度が高まる中で、日本社会は「核家族化や病院死が進み、『死の練習』は難しくなり」、「共同体の絆も弱まり、死に向き合い、死を支えるパワーを失っている」と強調する。世界各国では、強い力を持つ宗教が「死の練習」を支える役割を果たしているのに、宗教心の希薄さで際立つ日本は「『死の受容』は非常に困難になって」いるからだ。ここでは、膵臓がんで「余命3ヶ月」を宣告された75歳の元ナースの妻と78歳の認知症の夫のケースが紹介される。家族に看取られた見事なまでのいまわのきわが印象深く描かれていく。中川さんは、「がんで死ぬということは、『ゆるやかで、予見される死』を迎えることを意味する」として、それを「人生の総仕上げ」の期間と捉えることを勧めている。そうすれば、「がんもそんなに悪くない」と思えるはずだ、と。さて、19の歳から「臨終のこと」を習い続けてきたはずの私も〝80歳の壁〟を間近に意識するようになった。若き日に体育の時間に苦手だった跳び箱に挑む直前の時のような心境に今はある。(2024-8-3)

【他生のご縁 公明党政調の強いアドバイザー】

 いつの頃か、公明新聞の親しい先輩の引きで、中川さんとお会いするようになって、様々なご指導をいただくようになりました。心臓麻痺のようにポックリ死ぬのと、がんで余命を告げられて死ぬのと、どっちがいいでしょう?って、訊かれたことを思い出します。どっちも嫌だって、思ったものですが、さて今は?

 

 

 

 

 

 

 

 

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