在日韓国人との懇談での突然の涙
先の衆院選で、私は後輩議員の選挙事務所長として様々な方々とお出会いして、あれこれと議論をしたものですが、その中でとても印象に残る場面がありました。旧知の在日韓国人の方との懇談の際のことです。私が朝鮮半島にあっては、三国鼎立の時代が古代からあったのだから、南北分裂を統一へと持ち込まずともいいのではないかとの考え方を持ち出して、意見を訊いてみたのです。元々統一された存在ではなかったとの認識の提示でした。彼は当初、首肯しつつ静かに語り出しました。ところが暫くの刻を経て涙ぐみ、切なそうな表情のまま沈黙してしまったのです。その状態が2-3分間続いたでしょうか。いたたまれず、わたしから話題を変えました。朝鮮民族の不幸な歴史の根源に不用意に立ち入った我が身の不作法さを自省した経験です。
「韓国」を専門にする学者、評論家、ジャーナリストは私の友人たちに少なからずいることは、折に触れて述べてきました。先般らいの尹韓国大統領の戒厳令から弾劾に至る大騒ぎの最中に、某大手紙のソウル支局長になったばかりの友人記者に激励メールをしたものです。彼は台湾から香港へ、そして韓国へと、この10年足らずの間に転戦しています。そのうち帰国したら、「今風北東アジア談義」をしたいものと期待しています。
前置きが長くなってしまいました。12月中旬に読んだ本でとても惹き込まれた本は鈴置高史『韓国消滅』です。この人もひと時代前のソウル、香港特派員を経験してきました。日経新聞出身の経済評論家です。フジTVのプライムニュースでの「韓国解説」の常連の一人です。先日の放映でこの本を執筆者自ら宣伝されたので読みました。過去からの『米韓同盟消滅』『韓国民主政治の自壊』に連なるもので、期待に違わず面白いです。
「復讐の連鎖」に「哀しみの連鎖」を味わう
韓国の出生率は、0・72(2023年)と、OECDに所属する先進国中最も低いことが注目されます。その上、働き手の減少が著しく、経済規模の急激な縮小が懸念される一方です。さらに、米中両大国の狭間にあって右往左往する歴代政権は、交代するごとに前任者が獄に繋がれることが定番で、「復讐の連鎖」とでも言うべき実情は目を覆うがごとく無惨です。
今回の尹氏が招いた事態はまさにこれまでの「交代のサイクル」を待ちきれぬほどの急スピードといえます。その辺りのことがこの新書を読むと、単なる大統領個人の資質のなせるワザだとの見立てを超えて、この民族が宿命的に抱える宿痾とでもいうべきものに差配されていることがよく分かってきます。これまでの鈴置さんの著作を読めば自明の理のことだと分かっていながら、つい手を出して、改めて深く納得してしまうのです。
読み終えたいま、冒頭に述べた韓国にルーツを持つ隣人の涙に、同情を超えた〝哀しみの連鎖〟を抱かざるを得ません。「2つの祖国」を持つ、日本に生まれ住む在日韓国人には、日韓双方の歴史の根源が理解できるが故に、彼我の差の依って来たる流れに、こみあげてくるものがあるのでしょう。それについても改めて気づきました。(2024-12-20)