【167】これ一冊でトランプの国との違いが分かる?━━渡辺将人『アメリカ映画の文化副読本』を読む/3-2

 今のアメリカを理解するにはこの本が一番だと聞いた。誰に教えられたかは忘れた。本の裏表紙を見ると、シカゴ大学で修士課程を終えて、早稲田大大学院で博士(政治学)になった後、米下院議員事務所・上院選本部やテレビ東京報道部経済部、政治部記者で働いて、後に北海道大准教授を皮切りに米国の幾つもの大学で客員研究員をやってきて、今は慶應義塾大の総合政策学部大学院政策・メディア研究科准教授とある。早速元テレビ東京記者で(公明党番記者だった)今は京都先端科学大(KUAS)の教授になっている山本なみさんに確認したところ、なんと、かつて一緒に働いていたと聞いた。一気に親近感が湧き、読み始めた。めちゃくちゃ面白い。アメリカに興味がある映画好きなら堪らないほど気にいること請け合いである。①都市と地域②社交と恋愛③教育と学歴④信仰と対抗文化⑤人種と民族⑥政治と権力⑦職業とキャリアの7章と、末尾に「エッセイ━━アメリカ映画とドラマがある日常」が付け加えられている◆要するに、アメリカのメディアや選挙の裏表を知り抜いた政治学者による文化解説と、映画レビューに政治・社会分析が重なった本なのだが、ここに登場して重要な役割を果たす映画は、全部込みで292本(言及された作品リストも末尾に)ある。そのうち私が観たと記憶にあるのは、『シッコ』『トップガン』『ホーム・アローン』などほんの数本。最近のものが主流で「懐かしのシネマ」集ではないから、これから観る楽しみがいっぱいあるので嬉しいと、痩せ我慢を言うしかない。ついでにいっておくと、この本の魅力は、映画の解説が主ではなく、アメリカという国の成り立ち、仕組みから文化そのものを解読するために映画が使われているのだ。加えて、「英語学習のための映画・ドラマ」のコーナーでは、映画を使った英語の学び方が披瀝されている。これは、もはや今頃知っても遅いとしか言いようがない「万年英語学習青年」にとって、〝無用のお宝〟かもしれないが、大学や高校に合格した春秋に富む青少年にプレゼントしてあげたら、大いに喜ばれること、間違いなしと思われる。さらに「アメリカ推薦図書」も付いていて、至れり尽くせり。もっと若い時にこういう本に出会っていたらなどと、ついぼやいてしまう◆さて、少しは本文の中身も紹介しておかねば。現在の日本にはなぜGAFAMなどといった先端科学のトップを走る企業が皆無で、国力のレベルが低迷してきているのか。このところの私の関心もここに集中しており、第3章「敎育と学歴」、第7章「職業とキャリア」を併せ読むと、日米教育比較が分かりやすい。「アメリカ式教育のポイントは知識やファクトの丸暗記ではなく、それらの曖昧な知識をどう論理立てていくか、いわばどう点と線で結ぶかにある。学校は知識伝達の場ではなく、各自が吸収した知識のつながりや、意味を教員やクラスメートの意見の比較などで形成していく場だ。ディベートも多用される」とあったあと、「ディベート教育を知る上で役に立つ映画は『リッスン・トゥ・ミー ディベートに賭ける青春』(公開時『青春!ケンモント大学』だ」(第3章117頁)という具合に映画が紹介されていく。また、「履歴書の日米差も興味深い」というくだりには驚く。米国では写真を貼る習慣がないし、性別も知らせなくていい。その上、「学歴は『学位』とGPA(成績平均)しか書けない。結果が出せなかった途中努力や『隙間』に関心のない社会なのだ。アメリカの大学についての俗説『入るのは簡単だが出るのは難しい』は、『出ないと入ったことまで無にされる』と言い換えたほうがいい」(第7章293頁)と、こと細かにアメリカ社会が日本との比較で語られていく◆私の世代は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた時代の遠い過去の誤認識で固まっていて、「なぜ最近の日本は」と嘆きたがる傾向がある。ヨーロッパから見て遠く東の果ての島国に住む我々は、まさにガラパゴス化ぶりが一段と鮮明になってきたことに気がつかないのかもしれない。この本でアメリカ文化と日本文化の違いを改めて知って、さてどうするか。「インバウンド4000万人」の報に喜んで、世界と隔絶した自然風景の豊かさと人情の細やかさを売りものにする孤島で満足するのが日本の未来像だと割り切るのが関の山かもしれない。(2025-3-6 一部修正)

 

 

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