毎年1月26日が来るたびに、心躍らせてきた。その日に池田大作創価学会SGI会長が「平和」とりわけ「核廃絶」に向けての様々な提言を行なってきたからである。スタートは50年前、1975年(昭和50年)。提言そのものは、1983年(昭和58年)から2022年(令和4年)まで40年続けられた。今回はどんな提言がなされるのか、と興味を募らせ、期待を大きく膨らませて待ち望んできたものだ。時あたかも「半世紀後」という節目の年を前にした昨2024年にノーベル平和賞を日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が受賞したことは、とても意義深いことであった。同団体を陰に陽に支え続けてきたSGI がノルウエー・オスロでの授賞式(2024-12-10)に招かれたうえ、翌日同地で開かれたノーベル研究所主催の『平和賞フォーラム』に後援団体として参画した。こうした一連の動きに感慨深い思いを抱いていた昨年暮れに、ズバリ『核なき時代をデザインする』とのタイトルの本が手元に届いた。吉田文彦(長崎大学核兵器廃絶センター(RECNA)センター長)を中心とする専門家たち12人の共著だが、そのうちのひとり河合公明・長崎大教授(RECNA副センター長)から送られてきたものだ。学術的色彩が強い本だが勇気を奮い起こして挑戦した◆河合さんは、現在は長崎大教授だが、初めて会った頃は創価学会平和運動局の一員だった。著名な寺崎広嗣氏(同総局長)の後輩として、いつも一緒だったと記憶する。もう20年ほども前のことになろうか。てっきり寺崎氏の後継者の道を歩まれるものと思っていたら、学問の方に進まれ、先頃ついに上り詰められた。元々研究熱心で英邁な人との印象を受けていたから、驚くことではないのだが、学者はあまたいても実践者は少ないだけに少々惜しい気もする。昨今の風雲急を告げる国際政治情勢下にあって、ひとり東奔西走して世界を股にかける寺崎さんの苦労を思うときに、一層痛感せざるを得ない。この本は、日本学術振興会の科学研究費助成事業(科研費)に基づく研究プロジェクト「安全保障を損なわない核軍縮」の成果をまとめたもの。国際政治・安全保障、核不拡散、国際法の3グループに編纂者各々が分かれて、調査、整理し分析を加えた内容である。より多くの読者のために、「問題の本質の端的な表現」を心がけ、「核軍縮と安全保障をめぐる議論」の当事者意識の向上に努めたと、まえがきにあるが、それでもなおやや難しさを感じるのは、ひとえに当方の力のなさによるに違いない◆この本のポイントは、最終章における提言━━安全保障のための核軍縮と核廃絶にある、と見る。その提言とは、安全保障のシフト6、核廃絶への制度構築5、持続可能な核廃絶4の【3本柱15提言】に仕分けされている。それぞれを要点(括弧内に括る)と共に挙げてみたい。まず、3本柱その1①恣意的に生命を奪われない「生命権」の普遍化を《「人権+安全保障」戦略の構築化》②核軍縮・核廃絶へ向けた民主主義国の先導力向上《民主主義国の政治資産の最大限の活用》③核使用による破滅リスクをリアルに想定するリアリズムの必要性《核抑止依存諸国のなかで、核使用リスクを直視するリアリズムを広めていくこと》④核軍縮を安全保障政策の中核に《核軍縮を含む軍備管理はマイナスだとの核抑止依存国内の思い込みを排するために、核軍縮が歴史的に安全保障政策の重要な柱であることを強調する》⑤新興技術を活用した通常兵器システム・秩序安定化システムへの重心転換《核兵器の役割を低下させると同時に核使用リスクを下げて、核抑止に依存しない安全保障へのシフトを促す》⑥核の傘国一般と日本についての指針《日本は核なき世界への安全保障シフトへの方策を繰り出すことこそ、日本ブランドだと銘記すべし》。次に、3本柱その2に触れる。①核廃絶を可能にする条約・政策の整備・実行《NPT はあくまで核廃絶への過渡期の条約であり、核廃絶のためにはポストNPTの条約や政策が不可欠である》②フォーキャスティング方式の発展的活用《逆算方式(バックキャスティング)の枠組みのなかで、積み上げ方式(フォーキャステイング)を活かす》③軍縮国際法遵守のための措置(違反事例への対応)《不確定要素が多いため、極めて慎重な判断が必要》④共通言語である国際法による法戦の展開《核戦略の分野へ整合性をとるように、国際法の立場から呼びかける》⑤国際主義のエンパワーメント《2国間、多国間の核軍縮及びそのほかの軍備管理合意を形成していく必要》。最後に、3本柱その3は、①「不可逆性」向上のための核不拡散制度の強化②「不可逆性」を確保する国際的な検証・保障措置機関の創設③核兵器使用の適法性を持ち出す側の説明責任の強化④核廃絶にともなうグローバルガバナンスのシフト《核廃絶に関する国連の改革。核廃絶に必要な国際的枠組みの構築を可能にするような軍縮交渉フォーラムの整備など》。こうして15の提言をまとめてみると、煩雑のように見えかねないが、良識的で重要な提言のように思われよう◆ところが現実の世界ではいたって難しい。結局10年1日のごとく、核兵器「必要悪論」がのさばっているのだ。この本の末尾には、「人新世」の時代に求められる基本原則として①核兵器「必要悪」論から「不要悪」論への転換②地球環境問題などで採用されてきた「予防原則」の適用の2つが挙げられている。日本に限っていえば、残念ながら現実的には、核兵器禁止条約締結国会議へのオブザーバー参加すら実現していない。これなど被爆国日本に求められる方向の第一歩と思われるのだが。公明党の新しい代表の斉藤哲夫氏は広島県選出の政治家としてかねがね核廃絶への積極的姿勢の人としてよく知られている。3月には同会議が開催される。ここは石破茂首相を動かす絶好のチャンスである。トランプ米大統領の顔色を伺うあまり、これすらできないなら、あとは推して知るべしという他ないのである。(2025-1-25)