著者は最終章「現代日本人心の所在地」の中で、「憲法改正の動きと関連し、令和日本のテーマに『国家神道への郷愁と復権という難題』が浮上しているから」、その教科書としての、昭和19年(1944年)文部省編纂の『高等科國史』(復刻版)を読むよう薦めている。ここには明治期日本の教育の基軸であった「教育勅語」が反映し、「外来思想排除」の論理が繰り返し登場する。この問題の淵源は、江戸時代中期の本居宣長の「やまとごころ」を恣意的に使ったことに起因する。明治維新の背景的思想へと変化し、やがて戦前の「皇国日本」の基軸になった。江戸期国学から国家神道への一本道が鮮やかに描かれて、興味深い◆戦後日本は敗戦から米国占領を受け、一転して経済中心の国家運営になり、宗教性は極端に希薄となった。勿論、この間に日蓮仏法を基底に持つ創価学会によって宗教的「中道」の展開が浸透していったのだが、筆者はそれにはまったく触れてはいない。時代の潮流としては未だ記述するだけに至っていないと見ているのだろう。むしろ、「宗教性の希薄な日本の間隙を衝くように、国家神道を掲げた戦前への回帰を志向する勢力が天皇親政の神道国家を再興しよう」としていることに警鐘を鳴らす。(2024-2-7)
【他生のご縁 憲法調査会での参考人質疑から】
寺島実郎さんとは、衆議院憲法調査会の参考人に来ていただいた時に(2002-5-10)、冒頭私がお互いに団塊の世代前後の人間だとして、親近感を抱きますと述べました。その時の彼の笑顔がとても印象的だったことを明瞭に覚えています。そのあと、次のようなやりとりをしました。まず。一問目は、かつて私が米国に行って講演をした際に、日米間に「二つの失望」があると述べたことから始めました。一つ目は、在日米軍基地縮小政策が滞っていることへの、日本の米国への失望です。もう一つは、安全保障分野において、これ以上、日本は米国の期待に応えられないと言う意味での米国の日本への失望についてです。
つまり、日米同盟のもとでの協力体制について、両国の国民が抱く認識と期待の間に相当の隔たりがあるとの考えを寺島さんはどう捉えていますか、と訊いたのです。
これ対して、同氏は非常に大事な質問をいただいたと述べた上で、「安保というものに対する相互リスペクトつまり敬愛がない仕組みを、お互いに変えていかなきゃいけないということが、まず重要なポイントだ」と述べる一方、「日本における米軍の基地のあり方だとか、地位協定の改定だとかいうものをしっかり持ち出して、相互に敬愛できるような仕組みに近づけていこうと、言い出すべきだ」と強調されました。とても、大事な視点だと、思ったものです。
第二に、国連のアジア本部を沖縄に設置する構想は21世紀前半においてとても重要なことだと思うがどう考えるかと問いました。これには、「例えば、経済協力に関する機関だとか、アジア太平洋地域のエネルギーとか、食糧の国際機関だとかを粘り強く積み上げて誘致して、国連アジア本部というものを日本に引っ張ってくる考え方は実に意味があると思う。要するに、年間40万人の国連関係者が訪れるようなところには、例えば核攻撃はできません。そう言う意味も含めて、今言われたポイントは極めて大事だ」との見解でした。
あれから21年余。昨年暮に発刊された総合雑誌『世界』の1月号で、寺島さんは、この時の発言とほぼ同じことを「21世紀・未来圏 日本再生の構想」の中で、提案しています。残念ながら、私たち2人のやりとりは実現せぬままに時が過ぎてしまったのです。これで諦めずに、これからも頑張りたいと思っています。(この項終る)